まやたろの体当たり日記 Wanderlust

東京銀座のOL→山梨で農業と狩猟をはじめる→2016北米&南米自転車縦断→2017夏全国キャラバン→2019秋「なないろペダル」(出版舎ジグ)刊行!

ハリーと愉快な仲間たち 〜「尊敬と優しさ」で成り立つソルトスプリング島の暮らし〜

バンクーバーから2時間、豊かな自然に囲まれたコミュニティ

カナダの首都・バンクーバーからフェリーを乗り継ぎ約2時間。バンクーバーバンクーバー島に挟まれたガルフ諸島の中に浮かぶ人口1万人の島、ソルトスプリング島。港に着いたら、坂を上り、羊が放牧されているのどかな風景を横目に一本道を進む。さらに進むと両側にワインのぶどう畑が広がる。その先のさらに急な坂を上った、島のほぼ真ん中に位置する小さなコミュニティ。ここに大人14人、子供5人、犬、猫、ニワトリが暮らしている。

 

 

ここへ辿りついたのは全くの偶然だった。カウチサーフィンというサービスを知り、日程を登録していた私は、バンクーバーに住むカップルからうちにこないかというオファーを受けた。彼らもヨーロッパを自転車で旅したことがあるチャリダー。既にバンクーバーで滞在する場所は決まっていたが、聞けば2人は週末にソルトスプリング島に自転車をもっていくというではないか。ならばそっちに合流してもいいかということになり、2人がこれまたカウチサーフィンで見つけたこの場所に泊まることになったのである。



敷地内にはユニークな形の建物が並び、それぞれ住居、温室、コミュニティガーデン、キッチン、風呂小屋、瞑想部屋、工場などさまざまな役割を果たしている。多くはコブ(粘土、砂、わらを混ぜて作る)やストリップストロー(わらに土をまぶしたものを断熱材として構造材の間に詰める)など、自然の材料や廃材を使って建てられている。

 



 

ニワトリ小屋から始まったコミュニティ

 

この場所の創設者は、ハリー・ワーナー氏。今から26年前の1990年にカナダのトロントからここに移住してきた。写真を見て一目で決めたという。敷地の広さは1000m2。元々は農場で、一軒の家とニワトリ小屋、羊小屋、飼い葉小屋があっただけだった。

最初の数年は奥さんと住んでいたが、その後別居するようになり、ハリーはニワトリ小屋を改築して住んでいた。

そのうち一人の若者が住む場所が欲しいと言って訪ねてきた。そして羊小屋に壁と床を張って住むことになった。そしてどこからともなく一人、また一人と住人が増え、今のコミュニティが出来ていった。

特に大きかったのはMUD GIRLSと呼ばれるコブハウス作り集団のリーダー格であるマーリーが住むようになったこと。彼女たちが来てからどんどん家が増えていった。いろんな人が出ては入り、歴代100人近くが住んできたそうだ。



 水の浄化とカゴ作り、柳の木に隠された知恵

ハリーに敷地内を案内してもらった。まずはハリーの住むオクタゴンという八角形の小屋と、その隣に位置するキッチン。

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簡素な作りだが、屋根にはソーラーパネルがあり、照明と音響とパソコンの電源は全てこれでまかなっているそうだ。また、水洗トイレがなく、これによって水の使用量と汚染を抑えている。

キッチンの排水は箱の中にわらを詰めたトラップで大きなゴミや油分を取り除いてから流し、斜面の下にはグレイウォーターシステムと呼ばれる浄化システムとして、柳の木がたくさん生えており、キッチンやお風呂から出た排水の過剰な養分を吸収し、浄化している。

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ちなみにハリーはカゴ作りの達人。グレイウォーターシステムに使っている柳の木は春先(2月頃)に全て刈り取り、カゴの材料となる。

ハリー曰く、ポイントはこの後付けの底を付けること。これによってカゴが長持ちし、仮にダメになっても底だけ取り替えればいいそうだ。

 

 




コブハウスに元羊小屋?遊びゴコロ満載のセルフビルドな小屋たち

つづいては「MUD GIRLS」のマーリーが住むコブハウス。デザインが自由自在なのがコブハウスのいいところだ。ビンを埋め込んだボトルウォールや、様々な色形の装飾が美しい。地震にも強く、断熱効果も高い。元は平屋だったが、子供たちが増えるに従って増築し、今では3階建てに。屋根には古タイヤが使われている。

 

ここは元羊小屋。壁と床を張って改装された、小さなキッチンもあるとても素敵な空間だ。家主のシャーレットはガーデニングが大好きでコミュニティガーデンの管理もしている。



元飼い葉小屋とは到底信じられないこちらの素敵な小屋。家の前が温室になっている。廃材などをもらってきて半年で仕上げたというので驚きである。家主であるエリナーンはパーマカルチャーの先生でもあり、植物の造詣に深い。






デトックス効果もある?謎の飲み物"Kombucha"とは?

元ニワトリ小屋は、今は「Kombucha(コンブチャ)」工場になっている。昆布茶?かと思いきや、紅茶に砂糖やハーブなどを入れて発酵させた飲料だそうだ。シュワシュワとしてとても美味しい。元々モンゴル発祥だが、今や北米ではスーパーでも手に入るほど知名度が高い。日本でも「紅茶キノコ」として近頃知られるようになってきた。デトックス効果や整腸作用があるという。ここで作られたコンブチャは毎週土曜日に島のダウンタウンで開かれるサタデーマーケットで販売している。ちなみにこのサタデーマーケットは自分で手作りしたものしか販売してはいけないというモットーの元に開かれた、とてもローカルで楽しい市場だ。

 

コミュニティガーデン&温室にはさまざまな作物がある。住人はみんなガーデニングが大好きで、植物にも詳しい。いろんな草花を乾燥させてお茶にしたり、アロマオイルを作ったりしている。そのための工房もある。




ソルトスプリング島をはじめとするガルフ諸島ではゴミの収集を行っておらず、自分のゴミは自分で責任をもって処理場に持っていかなければならない。そして重さに応じてお金を払う。そのためリサイクルやリユースの意識がとても高く、生ゴミは全てコンポストやニワトリのエサにするほか、はじめからゴミになるような包装はなるべく買わないとのこと。

スーパーには量り売りのものもたくさん売っている。



毎週水曜日はファームデイと言う共同作業の日で、わたしが訪れた時は小屋を片付けてコミュニティ内のファームスタンド(無人販売所)を作った。月に一回ミーティングもあるそうだが、その他に特にルールなどはないという。



"Just respect and kindness."

 

ここに住む人たちに求めることはあるか、と尋ねたら、"Just respect and kindness."との答え。人に対しても、自然に対しても、尊敬と優しさの心を忘れないこと。個々人の自由とコミュニティ全体の調和を図るのは、時として難しいが、ここではそれをバランスよくこなしている。その鍵がハリーの語るシンプルな答えに集約されている気がした。

 

コミュニティスペースでは毎晩のようにパーティーが開かれ、テーブルには畑で採れた野菜やハリーの飼っているニワトリの卵で作られた豊かなメニューが並ぶ。いつの間にか演奏がはじまる。(ハリーはミュージシャンでもある)次から次へと色んな人が訪ねてくる。住人たちはみんな聞かずとも口々にハッピーだと言う。それはここに住む住人と、彼らに会いにくる人

 

 

 

一人ひとりによって作り上げられる空気が物語っていた。

 

あまりに居心地が良くて、当初3日間の予定だった滞在期間が、気づけば一週間に延びてしまった。





◆ソルトスプリング島への行き方

 

1.バンクーバーからフェリーで

バンクーバー(Tsawwassen)→ソルトスプリング島(Long Harbour)

所要時間:片道1時間半(non-stop便の場合)

運賃:片道大人$19.45、5-11歳$9.75、5歳未満は無料

 

2.バンクーバー島からフェリーで

バンクーバー島(Swartz Bay)→ソルトスプリング島(Fulford Harbour)

所要時間:片道35分

運賃:往復大人$12.35、5-11歳$6.20、5歳未満無料

 

いずれも詳細はBC Ferry http://www.bcferries.com

 

◆ハリーの家

http://couchsurfing.com

※カウチサーフィンを通じて滞在が可能

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