ジャングルの中のオフグリッド・ゲストハウス The Tribe
ゴアに行くつもりはなかった。 なぜならパリピが集まるところって聞いていたから。 わたしとは無縁の場所だろうと思っていた。 でも、オーロヴィルで出会ったフィデルが、 「南ゴアのジャングルの中にあるオフグリッドのゲストハウスと、 その近くのオーガニックのスパイス農園が最高だった!」と言っていて、 どうしても行きたくなってしまった。
カヌールのアシュラムをあとにして夜行列車に乗り、早朝にCancona駅に到着。
あまりにも小さな駅だもんだから暗闇の中灯りもほとんどなく、 どっちに行けば出口なのかすらわからない。 待合室で夜明けを待ってから大通りへ出る。
早朝だからか車通りもまばらでなかなかトゥクトゥクが捕まらない。 ケララではメーター式の明朗会計が多かったけど、ゴアでは同じ距離でもその4倍くらいふっかけてくる。 たった5kmほどの距離なのに200ルピーとか言うから、 「もういいや歩こう」と歩きはじめたらほどなくしてバイクのおじさんに声をかけられ、50ルピーで交渉成立。
そして到着したゲストハウス、The Tribe。
The Tribe
まだ7時過ぎで誰も起きていない様子。 犬がどこからともなく次々とやってきて、不審者(わたし)に向かってけたたましく吠えてくる。 その数なんと7匹!
その声のせいか起きてきたひとりの男性。 彼こそがここのオーナーのアレックスだった。 「今から朝食を作るから、適当に座ってて」と眠そうに目をこする。 ちょうど今日から5日間お祭りのため、スタッフのほとんどが休んでいて忙しいらしい。
朝日に照らされた敷地はとても美しく、わくわくする空間だった。 キッチンもコンポストトイレもそしてゲストが泊まるスペースも、 ヤシの葉や竹、土、牛糞など身の回りの自然素材で建てられている。
おいしそうな匂いに誘われて朝食をいただく。 インド料理以外のものを食べるのは久しぶりでなんだかうれしい。もちろんインド料理は大好きだけど。
Tanshikar Spice Farm
朝食を食べ終えてからはスクーターをレンタルしてオーガニックのスパイス農園へ。
カカオセレモニーとビーチとホーリー
帰ってくるとちょうど「カカオセレモニー」をしていたので参加させてもらう。 焚き火を囲み、祈りを捧げ、瞑想をし、カカオ豆から作ったドリンクを飲む。 カカオは幸福感をもたらす神経伝達物質「アナンダミド」を含むだけあってか、感極まって泣き出す人もいた。 正直わたしは途中からだったのでなんの儀式なのかすらはじめ理解していなかったのだけれど。
翌日は一緒に泊まっていた子達とスクーターに3ケツしてビーチまで出かけた。 昨日生まれてはじめてスクーターに乗った私が二人の命を預かっていいものかとハラハラした。 アゴンダビーチは今まで訪れたインドのどのビーチよりも人もゴミも少なくて綺麗だった。
3人で海に入り、目の前のカフェで海を眺めながらチャイを飲む。 ここ1ヶ月、病院とアシュラムにこもっていたから、このリゾート感はなかなか新鮮だった。 宿に戻ってシャワー(バケツ)を浴び、昼寝をして夕方に今度はパオラムビーチへ。 実は明日からホーリーというお祭りがはじまるのでその前夜祭があるという噂を聞いたのだけど、 海辺はいつも以上に静かだった。 みんなで夕日を眺め、ごはんを食べ、買い物をして帰った。
ちなみにホーリーは下の写真のような色粉かけ祭りとして有名だけど、 その由来をウィキペディア先生に聞いてみたら衝撃の事実が発覚。
ホーリー祭はもともと豊作祈願の祭りであったが、その後クリシュナ伝説などの各地の悪魔払いの伝説などが混ざって、現在みられる形になった。ホーリー祭の特徴である色粉や色水を掛け合う由来は、カシミール地方の伝承でこの日に人家に押し入ってくる悪鬼ビシャーチャを追い払うため泥や汚物を投げつけたのが始まりとされる[1]。そのため黄色は尿、赤は血、緑は田畑を象徴すると言われている。色水は色粉を水に混ぜて作る。
翌日街を歩いていたらいろんな人に顔に色を塗りつけられましたよ。 (汚物じゃなくてよかった)
The Tribeの全貌
ゴア滞在最終日、わたしのわがままに応えてアレックスが敷地内を案内してくれた。 イギリス出身の彼が、ベリーズやスリランカを経てここにたどり着いた経緯、 どのようにして土地を切り拓いたのか、いかにしてネイティブの樹種を残してそれ以外のものを駆逐していったか。知識がなくとも観察をすることでどれを残すべきか見えてくるという。
↑この木はネイティブの先駆種。わずか3年でここまで大きくなる。 そして大きくなっても葉が密ではないので下草にも日光が行き渡る。
↑まだ手をつけられていない部分。開拓当初は全体がこんなかんじだったらしい。
この土地は30年ほど前までカシューナッツのプランテーションで、その後長いこと放置されてきた。 カシューナッツはもともとブラジルの原種でここでは外来種。 モノカルチャーの影響か近年は病気が蔓延して立ち枯れる木も少なくない。 インドの条例では外来種でさえ伐るには許可が必要なので、 むしろ枯れてくれるのはありがたいとアレックスは言う。
↑奥の大木は枯れたカシューナッツ
さらに前オーナーの時はゴミ捨て場にもなっていたらしく、 整備の過程でゴミがわんさか出て来て処理が大変だったそうだ。
そして一年のうち8ヶ月は雨が降らないので、いかに水を節約するかが要。
例えば随所にある手洗い場は、底に穴の空いたココナッツの殻に水を注いで使う。 こうするとわずかコップ半杯の水で十分に手が洗える。
シャワーもバケツに水を汲むスタイル。身体も服も洗ってもバケツ一杯の水で事足りる。
3段階の洗い桶で大量の洗い物も無駄がない。
トイレはもちろんコンポストトイレ。紙を使わないインド式トイレはコンポスト向きだと思う。 (紙は分解されにくいので)
敷地内には大小10以上の小屋が建てられ、 「自然と一体になってもらいたいから、あえて壁は作らない」という。 常夏の南インドでは蚊帳さえあれば壁がなくとも快適に眠ることができる。 マットレスにはこだわって寝心地のいいものを。それだけでぐっと質が上がるそう。
広々としたサナトリウムや焚き火スペースもあって、いずれも土と牛糞で仕上げられている。
これだけの敷地で使う電力はわずかソーラーパネル3枚。
各部屋には灯りはなく、ケータイやパソコンなどの充電もこのソーラーステーションでしかできない。 多少の不便さはあるものの、でも本来これで十分なんだよなあと考えさせられる。 夜になるとあちこちにキャンドルが灯ってとても美しい。
アレックスの夢
ここまでたったの3年半で作り上げたというのが信じられない。 それでもアレックスは「本当はもっと美しくできたんだよ」とこぼす。
「ここの土地は5年契約だから、急いで結果を出さなければいけない。 残り一年半。おそらく次に更新する時は賃料を値上げされるだろう。 そして土地代を払い続けるために利益を出さなければいけない。 最初からこんなにお金がかかると知っていたら、どこかに土地を買って、 もっとじっくり時間をかけて美しいものができたのに…。 例えば小屋は一番簡単な方法で1棟3週間で建てたけど、 もっと時間があれば1棟1年くらいかけてじっくり作れたと思うんだ。 ゆくゆくは中南米にも土地を買って、第二の”The Tribe”を作りたい。 地球上の森林が滅びたとして、最後に残るのはアマゾンだと思う。 アマゾンには他の国や地域が失ってしまった先住民の文化や知恵が現存している。 だからそれを残したい。 そのためにもここで成果をあげて資金も貯めないと」
そう熱く語ってくれた。
一見クールな彼の、ほとばしるパッションを垣間見た気がした。
お父さんが獣医さんで、小さい頃から動物が大好きだったアレックス。 もともとこのコミュニティの人たちと仲良くなれたのも、 「蛇を捕まえられる西洋人がいる」という評判で近所の人たちから重宝されたのがきっかけだとか。 ここで飼っている7匹の犬もすべて保護犬。 チェックインの際の注意書きにはこう書かれていた。 「ここはもともと野生動物たちのすみかで、我々がお邪魔している立場。 だから彼らにリスペクトを。夜歩く時は必ずヘッドライトをつけること。 あなたのためではなくヘビやカエルのためです」
すばらしいなあと思ったのだけど、ネズミにだけは要注意。 まさか太鼓とカバンを食いちぎられるとは…笑 注意されていたので食品はメタルボックスに収納していたのだけど。
それさえ気をつければ、ごはんはおいしいしロケーションは最高だしすばらしい場所です。
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ブログ滞っていますが、インド全土ロックダウン前に無事に帰国しております。 絶賛引きこもり中です。