ラジャスターンの田舎町とコロナさん
ラジャスターンに来たのには大きく2つ理由があった。
ひとつはブロックプリントというインド更紗を作る現場を見るため。
そしてもう1つはカウチサーフィンで知り合ったRamと会うため。
彼は今まで1000人近くをホストしてきたカウチサーフィンのプロみたいな人。
わたしがチェンナイにいた頃からメッセージをくれてやりとりをしていて、会うのをとても楽しみにしていた。
20時間の列車旅からコタ駅に到着し、そこからさらにバスで2時間半かけてRamの住む街に着いた。観光客はまず来ないような小さな街だ。
牛だけでなくイノシシもカジュアルにいる。
Ramは仕事が忙しいようで家と職場を行ったり来たりしていた。わたしは彼と会う以外は特にやることも決めずに来てしまったので、少し手持ち無沙汰に思いながら帰りを待った。Ramはとても話好きで、インドの歴史や文化のこと、カースト制度のことなどをたくさん話してくれた。
元々文通が趣味で、のべ2000人くらいの人たちと文通をしていたそうだ。
一つ一つの手紙や封筒を丁寧にファイリングしている。
お世話になるお礼に何か作ろうと街中へ買い出しに出かけた。
北インドは唐辛子がガツンと効いた辛い料理が多く、唐辛子もたくさん見かける。
大きな竹かごを作っているおばあさんも見かけた。
インドではこれまでのところコロナの影響も少なく、どこか対岸の火事的なところがあった。南インドにいる間はコロナのコの字も聞くことはなかった。
ところが、ちょうどこの頃(3月2週目)からついにラジャスターン州でもイタリア人観光客の感染者が見つかり、心なしか観光客に対する目が厳しくなってきたのを感じた。
街を歩いていてわたしが日本人とわかると「コロナヴァイル〜ス!」と指差して笑ってくる。老若男女問わず囃し立ててくる。
そんな影響もあって、特にこのような観光客のいない田舎町ではかなり悪目立ちしてしまうようで、肩身の狭い思いをした。
夜になるとRamの息子さんが帰ってきて、料理が得意だという彼は
「明後日はお祭りの準備で料理をたくさんつくるから、一緒に作ろう〜」と言ってくれた。
だが翌朝のこと。
昨日市場で材料を買ったから、今日はわたしが日本のごはんを作るね、と言うと、Ramがバツの悪そうな顔をしている。
「医者の親戚から電話があって、「なんでこんな時に旅人を泊めているんだ!?」と言われてね…」
彼の表情を見て察した。これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「わかった。今日中にここを出て行くよ。でもせっかくだからお祭りをチラッと見てから行こうかな」と伝えた。
だがどうやらそのお祭りのせいで朝9時以降はバスが運休になるというので、その前に出た方がいいと言われ、バタバタと荷物をまとめて出て行った。
Ramには何度も「すまないね…」と言われた。
彼は悪くない。でもなんとなくモヤモヤとした気持ちを抱えながらバスに乗り込んだ。