料理教室とブロックプリント
アレッピーからコーチンまではローカルバスで約2時間。通勤時間と重なっていたため、車内はけっこう混んでいた。
バスの前方に女性、後方に男性が乗るというのがここでは暗黙の了解のようになっているけれどわたしは後ろに乗ってしまった。なにも言われなかったけど。
朝早く出たのはコーチンの料理教室に参加するため。
10時に来るように言われていたのでパンクチュアルな日本人代表()として7時に出発した。
近くの宿に入り、空きがあるようなので荷物を置かせてもらう。予約をしたいと言ったらあとでいいと言われたのでそのまま出てきてしまったけど、この時点でちゃんと確認しておけばよかった。
そしてはじまったマリア先生の料理教室。
まずは座学から。各スパイスの効能や使う量、入れるタイミング、組み合わせなどを丁寧に解説してくれた。情報量多すぎて一度に覚えきれない。
スパイスには消化を助ける働きのものが多くあって、中でもクミンとフェンネルはその筆頭。北インドでは主にクミンを、南インドではマスタードシードを使うことが多い。
南インドではココナッツオイルやココナッツクリームを使うのに対して、ココナッツがとれない北インドではギーや生クリームを使うことが多いため、消化を助けるクミンを入れるそうだ。
キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーなどアブラナ科の野菜も消化に悪いためこれらを調理するときは必ずにんにく、生姜、そしてクミンかフェンネルを加えること。
香りの強いフェヌグリークやスターアニスなどは少なめにすること。
早くも頭がパンクしそう。
午前中のメインディッシュはチキンマサラ。9種類のスパイスで仕上げる。
↑左上からフェヌグリーク、クミン、フェンネル、コショウ、カルダモン、クローブ、シナモン、スターアニス、マイス(ナツメグの花)
そして次々と出来上がって行く料理たち。2時間半があっという間にすぎていった。
↑上から時計回りにチキンマサラ、キャベツのポリヤル、フィッシュフライ、ひよこ豆の炒め物、オクラの炒め物
今までもスパイスカレーは自己流でよく作ってはいたものの、改めて理論を学ぶと、なるほどなぁと思うところが多く、これからはまぐれでなく、再現性のあるおいしいカレーが作れそうでワクワクしてきた。
あまりに面白いので午後のベジ編にも参加することにした。
午前中は8人のイギリス人グループの中に入ったのでなかなか肩身が狭かったけれど、午後はわたし以外にカップルがひと組だけだったので気軽に質問できた。
野菜はターメリックと塩を入れた水に1時間ほどつけてから洗うと農薬が洗い流せるとか。これはわりとどこの家庭でもやっているみたい。
↑ 上からインゲンのアビアル、レモンライス、ベジタブルカレー、ジャガイモのアルダム
南インド料理を習いたい方、マリア先生の料理教室はとってもおすすめです
コーチンに行ったらぜひ。
午前と午後の部の間に時間があったので通りをぷらぷらと歩いていたらブロックプリントのお店を発見。そして工房の場所を尋ねると、ここから2kmほどのところにあるというので行ってみることに。
リキシャをつかまえると、ドライバーのおじさんに
「おすすめのお店に一軒寄ってもらえたら100ルピーのところ50にするよ☆」と
怪しさ満点だったけど何も買わなくてもいいというので、言われるがままに連れていかれる。店内をぐるっと適当に周って何も買わずに店を出ると、
「もう一軒寄ってくれたらタダでいいから☆」
そんなわけないでしょ〜と思いながらも通り道だというのでOKして、今度もまた何も買わずに店を出る。そしてようやく目的地に着き、お金を払おうとすると
「ノンノン☆」と受け取ってくれない。
え、ほんとにいいの? と聞くとニカーっと笑って去って行った。
あっさりタダにしてくれてこっちが拍子抜けしてしまった。
さて、たどり着いた工房は、工房というよりも店の一角に体験コーナーがあるだけのものだったけれど、ブロックプリントに興味があると言うと実演して見せてくれた。
あまりに鮮やかなのでこれは何を使ってるの?と聞くと、黄色はターメリック、青はインディゴ、赤はビーツなどすべて天然の染料だという。
↑↓一つ一つ手彫りのウッドブロックたち
店員のアービフと話し込む。彼はカシミールの出身で、はじめはブロックプリントの話だったけれど、だんたんとカシミールの話になっていった。どんなに美しい場所か、人々が優しいかを語ってくれた。彼の見せてくれた写真は、春はピンクや黄色の花が咲き乱れ、夏は新緑、秋は紅葉、冬は一面の雪景色…と日本を思わせる四季折々の美しい光景だった。
いろいろと問題は抱えているけれど、観光客に対する犯罪率は0.0%で特に女性にはすごく安全な場所だという。パキスタンや中国、インドと揉めているのも、自分たちは対立するよりも仲良くしたい、だからこそ独立したいんだという話も印象的だった。
そこまで大好きな場所を離れてどうしてここに来たの? と聞くと、彼はちょっと神妙な面持ちになった。
ある日友人と一緒に景色のきれいなところに写真を撮りに行ったところ、軍部の人に怪しまれて捕まってしまった。結局すぐに釈放はされたものの、
「もし半年以内に何かあったら呼び出す」と言われた。
それを父親に伝えたところ、
「お前には生きていてほしい。だから今すぐここを出て安全な場所に逃げろ」 と言われてここにやってきたのだと。なんだか壮絶な話で言葉を失った。
今のモディ政権に対しても不満を持っているという。
例えば生活必需品である洋服に対する税率は18%に上げたのに、貴金属はたったの3%という税制に象徴されるように、金持ちを優遇する政策だと。そしてムスリムを敵視し、国外追放したり、投獄したりしていると。長年インドを治めて来たのはムスリムで、2004年にはGDPが14.5%まで上がったのに、現政権では4%にまで落ち込んでしまったと嘆く。
それでも彼は、ここコーチンの人は良い人ばかりで楽しいという。北インドではカシミール出身だと言うだけでみんなあれこれ聞いてくるけれど、ここでは誰もそんなことを気にしないから居心地がいいという。
話が盛り上がり、気づけばあっという間に1時間半が経っていた。
わたしの知らない世界をたくさん教えてくれた。
彼に会えただけでもここに来たかいがあった。
ありがとう、アービフ。いつかあなたの故郷に行ってみたい。