インドの浮世絵! 美しきインド更紗を求めて
いつからか草木染や手仕事によって生み出される布に無性に惹かれるようになった。
アイデアも技術もないくせに、美しい布を見つけると買わずにはいられない病。そんな布フェチにとってジャイプールは外せなかった。
たとえどんなにお腹が痛くても。
※この日記は3/15-16のものです
Anohki Museum
3時過ぎからお腹が苦しくなって目が覚めた。胃が腫れ上がり、ぐるぐるし、時々痛みに変わる。朝になっても痛みとだるさはおさまらず、結局12時過ぎまでゴロゴロとして過ごす。
このままだと1日が終わってしまう…
重い腰を上げてバイクタクシーを呼び、中心街でバスに乗り継ぐ。
昨日と全く同じところに向かっているあたり、わたしの計画性のなさが伺える。
そう、本日の目的地である「アノーキーミュージアム」は昨日行ったJaigarh Fort のすぐ近くだったのだ。
わざわざGoogle Mapに印まで付けておきながら、気づかなかったのはなぜ?
まあ、どのみち一人の方が気を遣わずにゆっくり周れるからいいのだけど。
向かう途中、ぼーっと歩いてたらフレッシュな牛のうんこを踏みました💩
ビーサンでした。
館内は薄暗くて人気もまばらだが、ブロックプリントの歴史や数百年前に作られた古い布がいくつも展示されていた。ジャイプール周辺にはいくつもの小さな村があって、村ごとにデザインや手法も大きく異なる。
一枚のベストを作り上げる工程も展示されていた。
①Harda(myrobalanという樹木の種子を粉にしたもの)に浸して前処理をする。
②③赤を入れたいところにはBegarというミョウバンを含んだペーストで模様を描く
④黒くしたいところはSyahi(馬の蹄鉄、黒糖、タマリンド種子の粉を混ぜた黒の染料)を用いる
※黒糖が蹄鉄のサビを落とし、タマリンド種子の粉が定着剤になる
⑤一度水洗いする
⑥アリザリン染料(セイヨウアカネ)とミョウバンが反応して赤くなる
⑦藍色を入れたくないところは泥で防染する
⑧藍染めで青く染める
⑨藍色を薄く残したいところは泥で防染
⑩もう一度藍染をする
防染していた泥や余分な染料を洗い流して、ようやく完成!
階段を上がって行くと、おっちゃんがブロックプリントの実演をしていた。
色ごとに異なる版を重ねて行くことで模様ができ上がっていく。
ミュージアム内のショップでハンカチやトートバッグなどを購入すると体験をさせてもらえるというので、わたしもハンカチを購入して体験した。
↑角の部分は新聞紙などを当てて斜めになるようにする
自分でやってみると意外と難しい。
見かねたおっちゃんが(頼みもしないのに)やってくれたので、わたしの作品とは言い難いけれども、完成。
鮮やかな色だけど全て天然の染料です!
www.anokhi.com
バグルー村とスーラジさん
翌日はジャイプールの中心から26番のバスで1時間ほどかけて念願のバグルー村へ。
ここはジャイプール周辺に数多あるインド更紗の村の中でも、インディゴ染めがのものが多く、藍好きとしては外せないところ。
さて、村に到着したはいいものの、一体どこへ向かえばいいのやら。
とりあえずメインの道から一本入った路地を歩いてみる。
すると「BLOCK PRINT」の看板が現れ、それに吸い寄せられるようにして路地裏の一角に出た。
地面が青く染まっていて、後ろには藍甕が。きっとここに染めた布を広げて干すのだろう。
わたしがキョロキョロしていると、店からお兄さんが出てきて工房を案内してくれた。
薄暗い工房の中でおばちゃんがひとり黙々と作業をしていた。
「今日は染めはしないの?」と聞くと、
「今日はお祭りでほとんどのスタッフが休みだからしない」と言う。
工房横のお店には美しい布が積み上げられていたが、その多くは10mや20mの大物で、かつ切り売りはしていないというので、たくさん買いたい気持ちをグッと抑え、迷いに迷って比較的短いものを2つ購入した。
事前にバグルー村についてネットで調べていた時に「スーラジさん」という職人さんの名前を何度も目にした。
国からも表彰されるほどの腕前だというので、是非ともお会いしてみたいとは思ったけれど、どこにいるのか皆目検討もつかない。
とりあえずマップに印をつけていた「Titanwala Museum」というところに行ってみれば何か手がかりがつかめるかもしれない。
中にいたおばちゃんに手招きされ、ダメ元で聞いてみた。
「あの〜、スーラジさんという職人さんをご存知ですか?」
「あら、わたしの夫よ〜」
なんとここがスーラジさんの工房兼ミュージアムそのものだったのだ。
スーラジさんはまさに藍甕から引き上げられたばかりの布を干しているところだった。
先祖代々布を作っていて、スーラジさんで8代目。
IWATATE FOLK TEXTILE MUSEUM館長の岩立さんとは先代の頃から40年以上の付き合いで、日本との縁も深く、何度か訪日したこともあるそう。
息子のディーパックさんが工房、そしてミュージアムを案内してくれた。
ちなみにこのミュージアムは昨年の2月に完成したばかりということで、どうりで情報が出てこなかった訳だ。
中には何百年も前の布や、彼のおじいさんのおじいさんが使っていたブロックも展示されていた。
木版や染料の原料について詳しく解説されているのも興味深い。
わたしは先日買ったブロックプリントのワンピースを着て行ったのだが、その柄を親子して「素敵な柄だ〜」と褒めてくれた。
スーラジさんは、「これは俺のデザインだ」と嬉しそうに言っていたけれど、そのあと「いや〜木版がなくなっちゃってね」「写真撮ってもいい?」などと言いながら二人して必死になって写真を撮っていたので、ちょっと「おや?」と思ったのはここだけの話。
続いて工房の方を見て回る。工程ごとに部屋が分かれている。
まずは木版で模様をつけていく。
デザインによってはこれを何色も重ねていく。
ひととおり終えた後に細かくチェック&手直しもしていた。
Dabuという泥防染の工程では染めたくない部分に木版で泥を付けていき、その上からおが粉をふりかけて、天日干しする。
この時にしっかりと乾かさないと、次の染色の工程で泥が剥がれ落ちてムラができてしまうそうだ。
そしていよいよ染色。
これを洗い流してようやく布が出来上がる。
天気にも左右されるし、肉体的にもかなりの重労働。
工房では牛も飼っていて、牛糞が丁寧に干されていた。
この日は使われていなかったけれど、他の草木染めの染料を煮出す時の燃料にするそうだ。
多くのところが機械を導入し、目にも鮮やかな化学染料を使うようになったが、ここでは昔ながらのやり方と天然染料にこだわっているのがすばらしい。
スーラジさんのこだわりの布も購入したし、体調もあまりよくないので、一家にお礼を告げて帰ることにした。
ディーパックさん曰く、1週間以上なら住み込みで修行もできるそうなので次はもっとゆっくり来てみたい。
ハレとケ
何やら賑やかな音がすると思って外へ出ると、向かいのお宅で結婚祝いのパレードがはじまるところだった。
この日は村のあちこちでパレードが行われていた。
ヒンドゥー教的に今は結婚式のシーズンらしい。
村を歩いていると「カンカンカン」という音がして、音のする方に向かうとブロックを彫っているところだった。
小さな鑿を木材で叩いて信じられないほど細かい模様を描き出していく。
小さな村だからか、観光客が珍しいのかみんなとてもフレンドリー
だが、ある一角に入ったら「コロナヴァーイルス!」と次々叫んできて気が滅入る。
そしてバスに揺られて、ジャイプールの宿に戻ると、受付のおじさんに呼び止められ、
「とうとう客が君ひとりになった。ここのホステルはもう閉めるから、隣のホテルに移ってくれ」と言われる。
帰国まであと3日。わたしは無事に帰れるのだろうか。